人生振り返り日記③ 高1の時に物理挫折した理由
私、実は高校の時に物理を選択していませんでした。これは今でも誰かに言ったら驚かれます。
理由は本当に単純で、当時学校の定期試験で平均点80点くらいなのに20点台を連発していたのと、対になる生物がめちゃくちゃよかったから (基本best10入りで100点取ったこともある) という感じです。数学が得意な人は物理もできるって言われていた割に数学の点数に対して物理の点数が低すぎたのでこんなん嘘だろとずっと思っていましたし、つい最近まで僕は全く物理には向いていないんだなと思っていました。
しかし最近「大学でなにも勉強しなかったのもったいないなあ」とようやく感じ始めてちょっと大学のテキストを読んでいると割と頭に入ってくるので、じゃあなんで当時は物理が全然できなかったんだ? というのがちょっと気になってきました。これを自分なりにようやく言語化できたので書いてみることにします。
公式が難しかった
当時ぼくは物理で毎回20点とか取っていたのですが、どうやら巷で「物理ができない」っていう人はほぼ白紙提出しているらしいです。僕は基本的に全部埋めて今回90点くらいやろなあと思っていたら毎回20点が返却されたという感じだったのでこの時点でどうやら取れていない理由が違いそうです。もう少し詳しく見てみましょう。
例えば、等加速度直線運動の公式にv^2-v0^2=2axっていうのがありますし、単振動の周期はT=2π√(m/K)ですね。まずこの時点で当時の僕にとってはハードルが高いです。何故ならば
数学の公式を見てください
Σk^2=n(n+1)(2n+1)/6
sin(x+y)=sinxcosy+cosxsiny
はい。文字は高々2個くらいしかありませんし四則演算で閉じていることがほとんどです。しかし物理の公式はどうでしょう。文字が3つも4つもあったり√が入ってたりが平然と行われています。これは難しいです。
だって数学の問題ってふつう具体値で計算するし、答えも綺麗な値になるように数値調整されてることが多いからやりやすいじゃないですか。たとえば「4次方程式を解け」って問題があったら因数定理を適用しやすいように答えをすべて整数解にしてくれたり、文字定数が含まれていたとしても簡単な代入で消えてくれたりする程度の配慮を数学の問題はしてくれます。
一方物理はmとかTとかのまま話を進めるうえ、全然そういうバランス調整してくれないじゃないですか。分母に2・v0^2・(cosΘ)^2とか来たらやる気なくしますし、本当にこれが答えかよって思います。
また、v^2-v0^2=2ax の2が大変厄介で、実はこれが当時物理で失点した理由tier1でした。公式がうろ覚えで2や1/2を掛け忘れたり、±を逆にしたりが多発したので一気に40点くらい落とすことが多かったのです。
公式くらい覚えろやという話な気がしますが、僕は基本的に暗記力が低すぎるので数学ですら公式をあんまり覚えていません。
まず当時の僕は中学受験の影響を引っ張っていたのか、あらゆる知識はそのまま頭に叩き込むものだと思っていました。なので数学の公式も暗記だと思っていました。が、数学の偉いところはうろ覚えでもなんとかなるというところで、これは僕のように暗記が弱すぎる人間にとっては大助かりだったのです。
これが英単語だとこうはいかず、例えばcomplimentという単語がありますね。僕は今この単語をgoogleで調べようとして「compriment」と打ったら「もしかして: compliment」って出てきて非常に恥ずかしい思いをしましたが、それはともかくスペルがmだったかnだったかとか、lだったかrだったかを忘れるとそれで終わりで、ほかに手掛かりがありません。詰み。終了。
しかし数学は違います。例えばΣk^2=n(n+1)(2n+1)/6の1/6って忘れないんですよ。なぜならn=1を代入したらわかるからです。(x+y+z)^3-3xyzの因数分解のプラスとマイナスの場所を間違えたこともありません。計算したらわかるからです。だから形をなんとなく覚えていたらそれで事足ります。
こんな調子ですから、物理の公式なんてはっきりと覚えられるわけがありません。T=2π√(m/K)の2を忘れたとして、なんか代入して気付けるかと言われたら僕は気付けません。覚えてる公式が本当に合っているか検算する手段がないのですから、僕にとって物理の公式なんてものは英単語みたいなもんでした。そしてこれこそが当時僕が感じた数学と物理との決定的な違いなのでした。
なので僕は「覚えてる覚えてないで30点も40点も飛んでいく科目なんかギャンブルだろ」という理由で生物選択を決意したのを覚えています。
(余談)和積・積和公式
突然ですが僕は和積や積和を覚えていません。まともな教育者ならこれらは「加法定理から導出しよう」と言うはずです。が、僕はこのようにやっていました。
たとえばsinαcosβ=1/2・(sin(α+β)+sin(α-β))を例に取りましょう。
当然というべきか、僕はこの公式をハッキリとは覚えておらず今googleで調べてきました。
高校時代の僕のこの公式に対するアプローチはこうです。
①まず 頭に1/2がついていて、α+βとα-βが角だったことだけは覚えている。積和は4つあるが1個だけ頭の係数が-1/2だった気がする。
②適当にsin(α+β)+sin(α-β)とかにして、α=30°、β=60°を代入する
③等式が成立すればこの公式で正しい
非常に数学的でない態度です。もちろん成立しなければ±とかを入れ替えたりsinをcosに変えたりして合うまでやります。貴重な時間を無駄にするので、そのうち数学の試験直前に和積と積和を眺めて短期記憶して、試験開始と同時に余白に書き殴っていました。
ちなみに3倍角の公式も「3次のほうは係数4で1次のほうは係数3」だけ覚えていて±が怪しかったので代入法で公式が合っているかをいちいち確認していました。これはやっていくうちに覚えましたが。
公式に意味がある&導出できるという発想がなかった
ここまでお読みになった方の中には「公式って丸暗記するものじゃなくね?」という感想を抱いた方も中にはいらっしゃるかと思います。例えば力学の公式はすべてF=maから出発すれば導出可というのは誰もが知るところです。しかし僕は物理の公式は導出できるものということを知りませんでした。
これはなぜかというと当時僕がドラクエの縛りプレイを主に行っていたからです。
意味がわからんぞという人多数だと思いますが、ちょっとまあ僕の話を少し聞いてくださいよ。
たとえば、ドラクエ8というゲームのラスボスは「念じボール」という攻撃を多用してきます。これのダメージを算出したいと考えたとします。
これに必要なのは以下の公式です。
基礎ダメージ = (攻撃力-守備力÷2)÷2
乱数 = 0~基礎ダメージ÷16+1
通常攻撃 = 基礎ダメージ±乱数
念じボール = 通常攻撃÷2+67
(実際にはこれに加え端数処理とかもあるが略)
例えば守備力240の味方が、攻撃力368の相手から念じボールを受けたときのダメージは? と言われると以上の事実から125~133と計算できるわけです。
僕は物理をこれと同じだと思っていました。
要はドラクエのダメージ計算の基本となる 基礎ダメージ = (攻撃力-守備力÷2)÷2 という式。これは力学でいうF=maに相当します。
しかし、ではこの基礎ダメージから出発して、念じボール = 通常攻撃÷2+67に辿り着けるでしょうか? 不可能です。なぜならこの式は完全にこの技のために独自に設定された式であり、他と完全に独立しているからです。要はこの式には製作者が世界をそう決めたから以上の意味がないのです。
ですからこの式の通常攻撃の部分に÷2がかかっていることにも「そう設定しているから」以上の意味がありません。
よって、ぼくは例えば 攻撃力=体重×素早さ×素早さ÷2という現実のダメージ計算式も、そう世界が決められているから以上の意味がないと思っていて、なんでわざわざ÷2してるんやろなあというところに考えが行きませんでした。しかもドラクエのダメージ計算なら間違えて覚えていても経験上ありえない数値が出ておかしいことに気付きますが、僕は物理でそれが起きても500Jと1000Jがそれぞれどんなもんなのかとか全く知らんので気付くわけがありません。
こんな調子ですから、公式についている係数を忘れたり±がわからなかったりするのはある意味必然だったのかもしれません。
余談ですが、物理の公式の導出には微分積分を使うというのは誰もが知ることだと思います。高校課程は微積を縛ってるので、ちゃんと公式を導出することを「微積物理」と言って特別扱いする風潮があります。僕はそういうことを何も知らなかったので、「微積物理」のことを数学でいう「ロピタルの定理」みたいな「高校範囲で使っちゃいけない大学の知識」なんだなと解釈していました。
結論として→現実世界に対する解像度が低すぎた
物理の話からは外れますが、僕は英語が非常に苦手です。なぜなら英単語が覚えられなかったからです。
突然ですが皆さんは「もっと脳を鍛える大人のDSトレーニング」というDSソフトをご存知でしょうか? あれは脳トレという名目で簡単なゲームを行うことで脳を活性化させよう! というソフトなのですが、そこに「符号変換」というゲームがあります。
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こんな感じの対応表が画面左側に出てきて、右側に「7・・・」とか出てくるのでそれに対応する記号 (この場合は「ゐ」)を入れましょう、というゲームです。
どれが何に対応しているかは毎回ランダムなのですが、仮に対応関係が毎回同じだとしたらより高いスコアを出すためには対応表を覚えようとするはずです。で、当時の僕は日本語に対して対応する英単語を覚えるという作業はこれと同じものだと思っていました。つまりこれが10個ではなく3000個くらいになったのが英単語暗記なのだ!
しかし、すぐに行き詰ってしまいました。というのもどうやら英語→日本語は全単射ではないらしく、一つの英単語に対し多くの日本語訳が対応するという分岐が発生していたのです。10個とかならともかく3000個もこれを覚えるとなるとよっぽど暗記の才能に恵まれていないと到底できるものではないと思っていたというのがありました。もしリンゴ⇔appleみたいに任意の英語と日本語とが1対1の関係だったらまだなんとかやる気にはなったのかもしれませんが、多くの英語・日本語に対してどちらの矢印も成り立たないというのであれば手に負えません。
しかし、どうやら一般の方々は英語に対してこのような見方をしていないようです。これは半年くらい前に知ったのですが、たとえば英単語にはどうも語幹というものがあって、英単語というのはどうやらこの小さなパーツをカスタマイズして成り立っているものらしいです (fairに対するunfairみたいに、単語に追加で何かをつけたら意味が広がるということは知っていたが、メラの最上級がメラゾーマだがヒャドの最上級がヒャドゾーマではないのと同様、つけられる「何か」はものによってバラバラだと思っていたためun- がほかの単語にも共通して否定の意味を表すものだとは当時知らなかった) 。なんというか、ガチでそういう感じの視点がなかった。
でも今考えたらFFをメインにプレイしていたら気付けたのかな。
というかそもそも英語っていうのは「簡単に読まれたら悔しいじゃないですか」の精神で複雑な仕様で実装したものではなくて、そもそも日本とは別の地域・文化で発展してきた言語なので日本語と1vs1対応しないのは当たり前だし、常識も違う。学校で習う英文法はなんとかそれを日本人も習得できるように頑張って言語化して整備されたものだという視点をみんなは持てているらしいです。僕はもう英語に対して例えばなんで強調構文にわざわざitを使う設定にしてんの? 専用の単語用意しないの? 異なる概念には異なる記号を使うのは当たり前で、そこの判別をプレイヤー側に丸投げするって意味不明では??? とかそういうことをずっと感じていてクソ仕様の宝庫だと思っていました。結論として英語はゲームバランスが悪すぎてプレイが不快だったのですが、まるっきり見当違いの感覚だったようです。
同じように、化学も酸化還元反応っていうのが実は高校化学の範囲で起こるあらゆる反応の基礎となるもので、これさえ理解すればあとは楽勝! みたいなのも知らず、個々の反応が独立して存在するものだと思っていましたし、新研究をはじめからおわりまで読もうとしていたので有機化合物の種類を覚えるところでついに挫折しました。地理歴史も板書を穴あきにして定期テスト3週間前から必死に覚えて暗唱できるようにしていたのに全然平均点に届かなかった (地理なんて平均-20点を超えた経験が一度もない) です。
要は僕はあらゆる科目について「その裏に現実世界の人文的、自然的な背景があって、そのとっかかりを学んでいる」「あらゆる法則には根源的な出発点がある」という概念が一切存在せず、すべて「なんか文科省がルール決めた脳トレ・対戦ゲームの類」だと感じていたわけです。
もちろんこの発想で物理に立ち向かうと死を迎えます。先ほども述べたように、物理の公式がただの代入して計算するための箱に見えているのですから当たり前です。
結局、物理で挫折した理由は物理そのものが苦手というよりはもう本質的に勉強そのものがそもそも苦手で、その原因は僕が現実世界の解像度があまりに低く、知識の背後に現実があるというイメージが皆無だったということに尽きるのかなと今は考えています。数学は背後に現実を要さずに全てのルールを設定してから話を進めますからなんとかなった。生物も得意だったけどあれはドラクエの仕様と同じく「知識や法則が各々浮いた状態で存在していて根源的な法則みたいなのがほぼない」ため単純暗記でもなんとかなったし、入試問題になると論理パズルの毛色が強くなるから対応できたというだけのお話です。
僕は最近ようやく現実世界への解像度が上がってきたのですが、それまでに29年かかりました。半分の齢15歳くらいでこの域に達せている人たちはみんな天才なんじゃないかと思います。もし、僕と同じく「数学の点数はいいのに物理が全然ダメ」っていう人がいたら、現実世界に目を向けてみると解決するのかもしれないな? と思いました。